外科医再考

1外バンド

1外バンド 僕は病院と名の付くところが嫌いだ。よほどのことが無い限りそこへ行くことは無い。 小学1年の時に、名古屋の某病院で扁桃腺の摘出手術を受けたことがある。 タイル張りの手術室、床屋の椅子のような手術椅子に座らされしっかりとベルトで体を固定された。 小さなジャッキのような器具を口のなかに突っ込まれ、大きく開けた口は閉じられない。 巨大な「照明」の下に青い手術着に身を包んだ「医師」が2名、僕と向き合った。 完全に自由を奪われた状態で、すでに恐怖感が沸々と湧き上がってきている。 麻酔の注射をされたところまではよかったが、ノコギリのようなものを口につっこまれてザックリと 右の扁桃腺をえぐり取られ、大量の血が口内に溢れた時は、「オイオイ、ちょっと待てコラ!何すんだこいつらは」と人生始まって以来の 異常事態に自己防衛本能が自然と働き出した。吸入器のようなもので口内の血液を吸い出して、1つ目の摘出が滞りなく終了したところで 僕は医師に告げた。「もうこんなのイヤダ!左は取らなくていいから!」と。泣きわめきながら、この小さな抵抗を 果たして何分続けただろうか・・・。そこへもう一人の医師がやってきて、「こっちは終ったよ」といって笑っている。 僕と一緒に手術を受けた同じ年の病室仲間のことだ。「ああ、あいつは我慢強そうなヤツだった。きっと歯をくいしばって頑張ったんだろう。 もっとも歯をくいしばっていては扁桃腺の手術はできないが・・・」なんてことを思いつつ僕はまだ抵抗を続けた。 何がきっかけでカンネンしたか全く憶えていないが、その後、医師の根気強い説得に応じ「痛くしない」という条件つきで、 左も「取らせてあげた」記憶がうっすらと残っている。僕は小学校1年にして「大事なタマ」を2つとも失ってしまったわけだ。 長々と記憶の旅に出てしまったが、こんなことがトラウマとなって病院嫌いになった可能性もありうる。 そんなわけで医師と接触する機会が常人に比べて極端に少ない僕であるが、BAGUに通うようになってお医者様へのイメージが 180度変わることになる。リーベパルツェの面々のおかげだ。今日は9ヶ月ぶりの「1外バンド」ライブ。 今日出演の「1外バンド」の「1外」とは「岐阜大学病院第一外科」のことで、外科医を中心にした珍しいバンドある。 メンバーは、第一外科医師+第二外科医師+現役医学生という布陣で、まさにステージも客席も病院関係者で溢れている。 僕が到着したのは「st.thomas」の演奏中だった。これが終ったら店に入ろうと思ってドアの前で待っていたら、ソロを終えた 渡辺先生がわざわざドアをあけて店内に招き入れてくれた。この人はとても明るく、僕の外科医のイメージをすっかり変えてくれた。 これまで僕のイメージの中にあった「外科医」は浪速大学第一外科教授「財前五郎」である。中学時代に僕をテレビの前に釘付けにしたドラマ「白い巨塔」の主人公だ。 すっかり財前のとりこになった僕は、父親の書棚に山崎豊子の原作本を見つけ、上下2巻の分厚い本を貪るように読破したことを憶えている。 渡辺先生の本業での御活躍ぶりは知らないが、BAGUでは活きのいいアルトを吹く陽気なジャズメンであり、大変面倒見のよいリーベOBだ。 曲は「my one and only love」と続く。今日はテナー、アルト、ペットと3管揃い踏みでいろんな表現が可能だ。 ペットのコイシさんをフューチャーした、「manha de carnaval」は出色だった。 ピアノの仁田先生、テナーの安村先生、ドラムの坂本先生とも医師が趣味でやっているとは思えないほどの演奏である。 激務の合間を縫って相当練習したに違いない。

ドク安村&ドク渡辺 2セット目ハナは「on green dolphine street」。この曲だけベースが中根くんにかわって、オリジナルメンバーの宮本先生が担当。 皆休憩時間にアルコールを十分に補充しており、大変熱い演奏となった。 仁田先生などは真っ赤な顔でピアノに向かっている。更なる盛りあがりの予感・・・。 リー・モーガンバージョンの「candy」はコイシさんのラッパがとてもキュートで気持ちのよい一曲だった。 さて、クライマックスはお次の曲「見上げてごらん夜の星を」。これは渡辺先生がスターアイズで聴いた川島哲郎の演奏に インスパイアされて選曲したものと僕は解釈している。あの時の川島さんのように全身全霊をこめて力一杯奏でる安村先生、 すっかり熱いジャズメンの姿になっている。この時この人の白衣姿はまったく想像できなかった。 この演奏で店内もグッとステージに引き込まれたところで、ドラムとベースがチェンジ。ドラムは坂本先生・・・エッ! じゃあ今まで叩いてた人は誰?リーベは駒が多いというか層が厚いというか、代役は一杯いるようだ。 ベースはやはりリーベOBで現在東京の病院に勤務している辻本先生。軽く「枯葉」を演奏してくれた。 「あの子、東京でもちゃんと練習してるみたいね」とは辻本先生の演奏を見たママさんの言葉。学生時代のことをよく知っているようだ。 予定時間をかなりオーバーしている中、もう一曲演奏してこの医師バンドのライブ終了。次の日が日曜で会社は休みということもあり、 すっかりリラックスして楽しむことができた。今日のメンバーの白衣姿はあまり見たくないが(病気はしたくないという意味ですので 誤解無きよう)、ジャズマンとしての彼らにはこれからもBAGUで大いに楽しませてもらえそうである。

ドク?? ドク辻本 ドク坂本&ドク仁田
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