特別な「時」、静かな「時」

赤坂由香利さん

ユカピーの旅の目的は・・・
ユカピーが好物「スル天」を食べにBAGUにやってきた。 今回のツアーの主目的はこの「する天」を食すことにある。 しかしBAGUには常に調律の行き届いたピアノがあり、多忙な北川さんもフリー、そして 何といっても岐阜にはユカピーファンが多い。スル天食べて、はいサヨナラ・・・で済むわーけがない(笑)。 というわけで、いつもの岐阜ジャズメンに囲まれスル天に向けの、ツアー最終日のお仕事が始まった。

スペシャルな時
さて、演奏前のBAGUはいつものようにほぼ満席。いつものメンツはもちろんのこと、 今日はユカピー初体験のお客様も多い。なかには4daysすべて参加というツワモノ(しげぞうさん)の姿も。 そのしげぞうさんに、3daysの楽しいエピソードなどを聴きながら演奏を待っている間にも、胸は高鳴る一方だ。 月一のスペシャルライブはBAGUにとっては文字通り「特別な時」であり、いつもとは違った時間が流れる。 さあ、いよいよトリオが登場し、特別な「時計」が静かに時を刻み始めた。

まず時計の針はなぜか夏の終わりへ逆戻り。人影のなくなった海辺。静かに流れるジョビンのボサノバ。 前回のBAGUライブは夏の始まり。今回は連続性を保つためにここからスタートというわけか。 北さんも1曲目からかなり気合の入ったソロを展開。今日もいいライブになりそうな予感・・・。 楽しい楽しい2.(知らない曲でした)で、いよいよ歌のご挨拶。ユカピーの声を初めて聴くお客様の反応やいかに。 3.では期待通りの濃厚な時間が流れてゆく。

そして時はゆっくりと「今」に戻ってきた。タイトルに「秋」が冠せられた スタンダードは数多い。初秋、中秋、晩秋、いろんな顔の秋があるが、秋の「顔色」に合わせて聴きたい歌も変わって くるのは当然で、ユカピーも色んなレパートリーをとりそろえて我々を楽しませてくれる。「autumn leaves」 「when october goes」などなど・・・。今日はリリカルなスタンダードで岐阜の晩秋を彩ってくれた。 なかなかライブで歌われることのないこの曲。たっぷり(秋3つ分くらい)楽しんだかな。 間髪いれずに5.で北さんとの二人の「時間」を見せ付けられることとなる。猿渡さんの抑揚のある シンバルが正確に「二人」のための時を刻んでゆく。ちょっとお子様には見せられない(笑)大人の時間だ。 一転して人気のスタンダード6.ではスイング感溢れる、ジャズファンなら思わず血湧き肉踊ってしまうような 痛快なトリオ・パフォーマンスで、もう体が揺れて揺れて仕方なかった。ユカピー、やるー! 今晩も半分が過ぎようとしている。7.で1セット目のクールダウン。久々に聴くこの曲にうっとり。 さあ、ぽっかり開いた時のはざまでしばし休憩である。


first set

1.o grande amor
2.?????
3.this masquerade
4.autumn nocturne
5.comes love
6.i'll close my eyes
7.every breath you take
猿渡さん

北川さん

second set

1.i only have eyes for you
2.black coffee
3.triste
4.polka dots and moonbeams
5.my foolish heart
6.tears in heaven
7.mista
8.ookina furu-dokei (an encore)

しばらく止まっていた針が再び振れだした。心地よく酔っている時にこの手の小粋なスタンダードをやられると もうたまらない。鼻歌でメロディーを口ずさみながら首を左右に振り、指なども鳴らして能動的にライブに参加。 はたから見るとちょっと怪しい人だ。2.では北さんのベースが秒針代わり。北さん流のどっしりとしたリズムで 眠れぬ夜を演出。こんな演奏を聴いてしまうと、本当に眠れなくなりそうだ。

次の曲のイントロが聞こえた瞬間、針は物凄い勢いで逆周りをはじめた。「おーい、どこまでいくんだーい」。 針が止まった瞬間、BAGUに真夏の太陽が降り注ぎ、暖かい風が吹き抜ける。そう、そこはまさに前回のユカピーライブのBAGU。 梅雨明けの日、「今年はどんな夏になるだろう」と夢想しながら楽しんだあの晩が蘇る。太陽の光が強すぎてユカピーはまぶしがっていましたが(笑)。 「おいしい水」や「ジサフィナード」が悪戯っぽく顔をのぞかせる楽しい爽やかな演奏にしばし寒さを忘れて陶酔。 そして美しいスタンダードが続くが、秋はどんなスタンダードもしっくりくるお得な季節だ。こてこてのバラードで歌われることの 多い5.などはちょっと変わったアップテンポでなかなか新鮮だった。

リクエストもOKよ!
ユカピーはリクエストにも心地よく応えてくれることはみなさんよくご存知だと思うが、なかには一緒にやっているミュージシャンが リクエストすることもある。6.は紛れも無く猿渡さんのリクエスト。実は猿渡さんはこの曲が好きで、しっかり聴きながら太鼓を叩くのだ。 そして、僭越ながら7.は僕のリクエスト!休憩時間に猿渡さんに「何か聴きたい曲ないか?」と問われて、あれこれ考えた。

  1.初めてのお客さんに、リピーターになってもらうために是非聴いてもらいたい曲
  2.店のオーナーである’バンマスター’猿渡泰幸が目立つ曲
  3.僕が聴きたい曲

これらを念頭に、検討に検討を重ねた結果、7.が出てきた。その間わずか0.05秒。 コンピューター並みの正確な演算であった。しかし僕のリクエストはいつもこれである。 ちょっと芸がないなー。今度チャンスがあったら「アレ」をリクエストしてみよう。 思惑通り、ユカピーの歌と猿渡さんのタイコは大いに受け、誰一人おしゃべりをすること なく皆固唾を呑んでステージにのめりこんでいる。怒涛のラストでひとまずピシャリとステージが 締まった。ここで北川さんが客席に座りこみ、猿渡さんがカウンターに引き下がったため、「特別な時計」 は止まったかに見えたが、照明が落とされた暗いステージから懐かしい歌が。 色んな時計が色んな時を刻んできた今日のスペシャルライブ。最後に一番大きな、一番古い時計が 今日の終わりを告げてくれることとなった。このまま何コーラスも聴いていたい。 そんな雰囲気に包まれる店内。しかし、時計とはいつか止まるもの。客席のすべての人の心を平等に震わせて、その時計は 静かに、あくまで静かに止まった。 「特別な時」は毎月こうして過ぎてゆくのだ。 楽しい打ち上げの後、BAGUを出て異様に澄んだ星空を眺めながら歩いているうちに、またレギュラーな時 が戻ってきたようだ。次のスペシャルライブまで、いつもの時計が、ありふれた日常を刻むことだろう。

赤坂さん
大きな古時計 猿渡さん


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