待ち人来る

俊三さん

不屈のトランペッター
大野俊三さんは、不屈のトランペッターである。「凄い」あるいは「巧い」ラッパ吹きは世の中にごまんといるが、 「不屈の」となるとそうはいまい。何をもって「不屈」と呼ぶのかって?話が長くなりそうなのでとりあえず コチラをご覧いただきたい。 おわかりかな。そう、2年前にビートたけしの「アンビリーバボー」という番組で俊三さんの「奇跡体験」が紹介されたときのダイジェストである。
来日ジャズメン
そして今日は僕にとっての奇跡体験。なんてったって5月以来、待ちに待った「その人」がBAGUのステージでマスターの タイコをバックにラッパを吹いてくれるのだから・・・。 しかも、今回はプロモーターを通さないプライベートの来日である。約2週間ずっと岐阜に滞在し、三槻直子さんのレコーディング と、数本のライブ(ほとんど岐阜・名古屋)をこなしニューヨークに戻るというスケジュール。 「来日」というと奇異に聞えるかもしれないが、実は俊三さん、今年正式にアメリカ国籍を取得しており立派なアメリカ人なのだ。 だから「来日」が正解。その証拠に、日本に入国するためには面倒な入国手続きにパスしなければならない。 その辺の雑務に奔走したのが何を隠そう大野先生なのだ。 だから今回は労をねぎらって大野先生が俊三さんを岐阜に招聘したということにしておこう(笑)。
ギネスに挑戦?
立錐の余地が無い・・・辞書に今日のBAGUの写真を載せておけばこの言葉の意味は即座に伝わるだろう。 お客様は50人をゆうに超えている。BAGUに一度でも御来店いただいたことがある人ならこの数字がいかに「異常」か 理解できるはず。ステージだけでなく客席にも非日常的な光景が広がっているわけだ。僕は満員電車や、休日のデパートなど 人の密集している場所がまったくダメな人間だが、不思議なことにライブのこの熱気だけは大の好物(笑)。 今日も熱気を肴に心地よくビールを流し込み「待ち人」の第一声ならぬ第一音に思いを馳せる。

その第一音は愛娘「マヤちゃん」の名を冠した曲だった。アグレッシブなバップナンバーがビンビン胸に響いてくる。 実は2日前に岐阜市内某所で俊三さん初体験を済ませていた僕だが、メンツも編成も店も違う今日の俊三さんは明らかに 違う雰囲気をたたえている。こ、これがニューヨークのクラブの音か!

ラッパで「唱う」日本人の歌の原点・・・
CD『日本の詩情(poetry of japan)』、それは俊三さんの最新ワーク。ここには日本人が生まれて最初に触れる歌が詰まっており、 アメリカのジャズメンと伴にラッパでそれを流麗に歌っている。2.や4.はそのワークの一端だ。 今日は、この歌の真の意味を共有できる「日本人」とのカルテットで演奏。ニューヨークの一線級ジャズメンとして四半世紀を 生き抜いてきた俊三さんが、演奏を通じて日本とアメリカの間を浮遊する瞬間か。とにかく素晴らしい出来に言葉を失った。 そんななかに織り交ぜられるメジャースタンダードも俊三さん流の独特のアプローチで楽しませてくれる。 久々に聴いた納谷さんのピアノは面白いようにラッパに呼応するし、北川さんも昨日に引き続き会心の演奏。明らかに大野俊三という 一人のミュージシャンが他の3人にいい意味の緊張感とプレッシャーを与え続けていた。猿渡さんも「同級生」そして 「同業者」である仲間との2年ぶりの共演。全く力みが生まれないといったらウソになる(笑)。今日も次第にエンジンがかかってきた。


first set

1.maya
3.autumn leaves
4.sakura
5.straight no chaser
北川さん

納谷さん

second set

1.ringo oiwake
2.solar
3.summertime
4.blue bossa
5.now's the time
6.old folks (an encore)

覚醒の瞬間
2セット目はいわゆるナツメロからスタート。そう、美空ひばりさんの代表曲だ。津軽のりんご畑は日本の原風景のひとつ。 どうやったらジャズになるんだろう・・・なんていう曲を純度99%を超えるJAZZに仕立ててしまう。猿渡さんに言わせると どれもとても複雑なアレンジで難しいらしい。 まずストレートなテーマで、普段心の底流を静かに流れている「日本人としてアイデンティティ」が覚醒され、僕らの脳裏に日本の 原風景ともとれる様々な背景が形成される。そしてその風景はやがて、火を吹くような激しいジャズで満たされる。心地よく夢を 見ているような、そんな感覚。 こういうのは他では聴けない唯一無二のパフォーマンスであろう。間髪入れずに180度向きを変えた2.で再び僕の脳裏の背景が ニューヨークに戻った。
怒涛のエンディング
3.は良質な子守唄。寒い東北の「りんご畑」からアメリカ南部の「綿花畑」へ。俊三さんの優しく暖かいミュートトランペットが そのままミシシッピの夏を体感させてくれた。 そして4.はある意味今日のピークである。猿渡さんの渾身のドラムソロに「何か」胸騒ぎを覚えた。まさに嵐の前触れだ。 自らの手をブランジャー(お椀型のミュート)代わりにして、きめ細かに音を作っていく俊三さんの目は真剣そのもの。 しばらく誰も入り込めない親友同士の息を飲むような対話が続いた。「何か」を話していることは明らかだ。 タイコはこれでもかという位に激しさを増してゆき、ラッパは淡々とそれに応じる。 この時、既に11:00近かったが、猿渡さんは永遠に続くかと思うくらい演奏にのめりこんでいた。 素晴らしい対話の内容が僕らに見えてきたのは、次の瞬間。待ち構えたように、納谷さん、北川さんが対話にわってはいる。 そしてそのまま4人でどこか別次元に飛んでいってしまった。もちろん僕らも連れてである。
夜もふけてまいりました

予定時刻を大幅にオーバーしてのエンディング。それでも足りないというのが正直な気持ち。近隣に民家が密集しているBAGUの事情は重々承知して いるつもりだが、ついついアンコールを求める拍手に力が入る。締めは、バラードをミュートでしっとりと・・・。 ボサノバで静かに奏でられた6.はまさに絶品中の絶品。本当に様々な「顔」を見せてくれた俊三さん、ライブ終了後は 深夜にもかかわらず、いつまでも俊三さんを囲む輪が途切れなかった。やはり故郷でのライブは、特別な意味を持っている。 日々世界中で星の数ほど行われているであろうジャズライブ。特に名演と呼ばれるものはジャズクラブとセットで我々の記憶に とどめられることが多い。「カフェ・ボヘミアのジャズ・メッセンジャーズ」しかり、「ヴィレッジ・ヴァンガードの夜(ロリンズ)」しかり。 そして今晩、またひとつの名演が生まれた。

  『BAGUのシュンゾー・オーノ』

レコードにこそならないものの、今日BAGUにいらしたお客様全員の記憶のライブラリーに新たな1枚として加わったことは 間違いない。

俊三さん&北川さん 猿渡さん&俊三さん


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