なごりの雨

大野俊三4

俊三さんが来日して10日あまり。いよいよラスト・ライブがやってきてしまった。 僕は可能な限り俊三さんを追っかけて、この「風庵」のサロンコンサートで4つ目となる。 名残り惜しさは尽きないが、こればかりは仕方ない。外には冷たい「なごり雨」が降りしきる。 各務原丘陵にひっそり佇む山寺「風庵」。ここは単なるお寺ではない。この地域の人々に多様な「芸術」を提供する文化発信拠点だ。 古来お寺が持ち合わせていた機能を、実に現代風にスマートに実現する。 さらに独自にメールマガジンを発行するなどITの有効利用もこの寺の特徴のひとつ。

そして演奏は、もちろん本堂で…というのは冗談で、「ギャラリー風庵」という立派なサロンが敷地内に併設されており、ここが会場となる。 俊三さんは過去にもここで演奏しており、当然ファンも多い。綺麗に並んだ仮設椅子は満席だ。メンバーが現れるのと同時に静まりかえる場内。 俊三さんの挨拶とともに始まったのが1.。ステージが広く、メンバーがほぼ横一線に並んでいるため、それぞれの姿が、表情、仕草がはっきりと 見て取れる。我々だけでなく、ミュージシャンたちもこの俊三さんとのラスト・ライブを存分に楽しもうという気力に満ち満ちているようにうつった。

北川さんのベースで始まった3.は、ドラマチックなベースソロが延々続く。俊三さんはひたすら耳を傾けイメージを膨らませているようだ。 やがてラッパが絶妙の間でスッと入ってゆく。吹きながらもどんどん二人のアイデアが絡み合ってやがてある一点に収斂されていった。 テーマが演奏された瞬間だ。この時のえもいわれぬ快感は何なんだろう。後藤さんも負けじと、素晴らしいアプローチ。 この秋に幾百もの(大袈裟です)「枯葉」を聴いたが、この日のそれは今年のナンバー1に躍り出た。

猿渡さんの刻む心地よいボサノバのリズムで、十八番の4.が披露される。想像できますか?ボサノバの「母さんの歌」ですよ。 何度聴いても胸に込み上げてくるものがある。それだけ俊三さんの生のフリューゲルの表現力は群を抜いているということだ。 何百ページの紙片を割いたって伝えきれないことだってあるのに、俊三さんはたった1音で、きっちりそれをやってのけてしまう。


first set

1.maya
2.sakura
3.autumn leaves
4.kahsan no uta
5.straight no chaser
後藤さん
北川さん

second set

1.four
2.solar
3.bubbles
4.alone together
5.blue bossa
6.here's that rainy day

さて、泣いても笑っても来日最終セットだ。まずはマイルスに捧ぐ1.、そして2.。 2.のエンディングと同時に間髪入れず 激しいドラムソロが始まった。鬼気迫るものがある。 猿渡さんは、これが最後とばかりにあらん限りの力を振り絞って嵐のようにガンガンに叩きまくり、 俊三さんもラッパでそれに応える。やがてフッと静まりかえった。嵐が去った雲の切れ間から静かに静かに 漏れ聞えてきたのは、後藤さんのそれは綺麗なピアノ。まるでミュージカルでも見ているような音の演出だ。 しかもその曲は、さんざん予習しておいた俊三さんの出世作「バブルス」だった。「やっと聴けたぜー!」もう小躍りして喜んだ ことは言うまでも無い。あとで聞いたら、このツアーで初めての演奏だったらしい。因みにこれはとあるお客様のリクエスト。 誰だかわからないけど御礼を言いたい。

北川さんをフューチャーした4.。猿渡さんのタイコが効いてる5.。どれも瞬きも惜しんで見入り、聴き入った。 そしてアンコールの拍手、とうとうこの時が来てしまった。一体何をやってくれるのか・・・。

  『今日は雨降りなので・・・これやります』

にこやかに紹介して演奏された6.。「雨が降ってくれて有難う」そんな素晴らしい演奏だった。 晴れていたら聴けなかったかとおもうとゾッとする(笑)。 僕は本能的に音、色、形、雰囲気、etc、その時の「すべて」を脳裏に焼き付ける作業に 入っていた。キーワードは雨だ。雨が降ったら想い出そう、今日のことを・・・。 僕にとって、驚きと感動の10日間が終わった。今は俊三さんに心から「ありがとう」と言いたい気持ちで一杯です!

俊三さん 猿渡さん&俊三さん

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